介護保険制度の導入とその背景
高齢化社会の急速な進行によって超高齢社会に突入した日本。介護保険制度が導入された時代背景とその目的について
高齢化社会の進行
日本や欧米諸国などでは少子高齢化の進行により、高齢化率(総人口に占める65歳以上の高齢者が占める割合)が近年、急速に高まって来ました。
日本の高齢化率は、1935年の4.7%を最低に、1950年代以降の出生率の低下(少子化)や死亡率の低下などといった要因が複合的に関わり、2007年には『超高齢社会』へと突入(2010年は23%を突破)し、「平均寿命」「高齢者数」「高齢化のスピード」という3点で世界一の高齢化社会となっています。
※高齢化社会 ~ 高齢化率 7%~14% ・・・ 1970(昭和45)年に到達
高齢社会 ~ 高齢化率 14%~21% ・・・ 1995(平成7)年に到達
超高齢社会 ~ 高齢化率 21%~ ・・・ 2007(平成19)年に到達
こうした高齢化社会の進行を背景に、次のような高齢者に対する保険福祉政策が行われてきました。
1963年 |
「老人福祉法」を制定し、特別養護老人ホームの創設やホームヘルパー(老人家庭奉仕員)制度等を導入 |
1973年 |
老人医療費の無料化を実施 |
1982年 |
「老人保健法」を制定し、老人医療費の一定額負担等の導入 |
1989年 |
「ゴールドプラン(高齢者保険福祉推進10か年戦略)」を策定し、施設緊急整備と在宅福祉の推進等を図る |
1994年 |
「新ゴールドプラン(新・高齢者保険福祉推進10か年戦略)」を策定し、在宅介護の充実等を図る |
介護保険制度導入の背景
介護保険制度は、1996年に当時の連立与党3党によって「介護保険制度の創設」についての政策合意がなされ、翌1997年に介護保険法成立、2000年に施行されました。
それでは、介護保険制度はどういった問題が背景にあって導入されたのでしょうか?
- 老人福祉(特別養護老人ホーム、ホームヘルプサービス、デイサービス等)の問題点
- 利用者が自分でサービスを選択することが出来ず、市町村が提供するサービスの種類や事業所等を決めていました。また、これによって、サービスを提供する側(市町村による直接運営または委託運営)に民間のような競争原理が働かないため、サービスの質が向上しにくい状況になっていました
- サービスの利用にあたって所得調査をされるため、抵抗感がありました。また、サービス利用にあたっての費用負担が応能負担(利用者本人と扶養義務者の収入金額に応じた費用を負担する)方式であったため、中高所得者にとっては重い負担になっていました
- 老人医療(老人保険施設、療養型病床群、一般病棟、訪問看護、デイケア等)の問題点
- 老人福祉サービスの費用負担が応能負担であったことから、中高所得者層が、利用者負担が低い老人医療を介護目的で利用(一般病院への長期入院)する問題がありました
- このため、特別養護老人ホームや老人保健施設と比較してコストが高くなり、医療費が増加しました
- そもそも病院は治療を目的とした施設であり、介護を目的としていないため、介護を必要とする人が長期で利用するには設備やスタッフ体制、生活環境などの面で体制が不十分でした
- 社会的背景(制度としての介護の必要性)
- 世界に類を見ない急速な高齢化の進展にともなって、要介護高齢者の急激な増加、(長寿化により)介護期間の長期化
- 核家族化の進行によって、介護をする側の家族も高齢化し「老々介護」問題が発生
介護保険制度導入による問題の解決
こうした問題を背景として導入された介護保険制度は、『高齢者の介護を家族だけでなく、社会全体で支えあう仕組み』を作るために導入されたものです。
- 自立支援
- 単に介護を必要とする高齢者の方の身の回りの世話をするといことだけにとどまらず、高齢者の自立を支援する
- 利用者本位のサービス
- 市町村がサービス内容・事業者を決定 → サービス利用者自身の選択によってサービスの種類や事業者を選択
- 医療と福祉を別々に申し込む → ケアプラン(介護サービス利用計画)を作成し、「保健医療サービス」「福祉サービス」を総合的に利用できる
- 市町村や社会福祉協議会などの公的団体中心のサービス提供 → 民間企業やNPO法人などが介護サービスに参入することで、競争原理が働き、質の向上と利用者の選択の幅が増える
- 社会保険方式
- 給付と負担の関係が明確な社会保険方式を採用することで、所得にかかわらずサービス利用の1割を負担する
(例)世帯主給与年収800万円、老親が月20万円の年金受給者の場合、特別養護老人ホームの利用料は月19万円→5万円に、ホームヘルパーの利用は1時間950円→30分~1時間400円と中高所得者層の利用者負担の軽減が図られました